PLCがIEEE1901標準技術として承認される

IEEE P1901ワーキンググループは 2010年10月30日 PLC 技術が 500Mbps の BPL 通信方式の標準技術方式を定める IEEE 1901 として承認されたと発表した.最終的な標準の発行は来年2月になるとのこと.

一部報道ではパナソニックの PLC 技術である HD-PLC が IEEE 1901 として承認されたとパナソニックのプレスリリースを元に報道しているが,事情は少し違うようだ.

電力線搬送通信

電力線搬送通信とは電力を供給する回線を利用して情報を通信する技術であり,BPL (Broadband over Power Lines) や PLC (Power Line Communication) と呼ばれる.

どちらも同じものを指しているはずなのだが,BPL は主に屋外の電力線搬送通信,PLC は屋内の電力線搬送通信を指すことが多いように感じる.

IEEE P1901

IEEE P1901 は 2005 年の6月に開始され,電力線搬送通信のうち PLC を用いた屋内 (In-Home) およびアクセス網 (Access) のブロードバンド通信を対象として標準化を進めている.

IEEE P1901 では In-Home, Access および他の方式との共存を提案する Co-Existence の3分野で技術的議論・標準化が行われている.

類似する標準

2006 年3月に立ち上がった ITU-T G.9960 (G.hn) は家庭内の有線を用いた通信における物理層 (PHY) とメディアアクセスコントロール (MAC) について標準化を行っている.IEEE P1901 が電力線のみを対象にするのに対し,G.hn では家庭内のありとあらゆる有線(同軸ケーブルや電話線)を対象にしている点で異なる.PLC も含まれる.

PLC の方式

PLC の方式は以下の3種類が主流である.

  • HD-PLC
  • HomePlug AV
  • UPA

HD-PLCパナソニックが主導している規格である.協賛・参加企業はほぼ日本企業であり,日本では広く普及しているが,海外ではあまり普及していない模様である.

HomePlug AV (HPAV) は Atheros, Cisco, Comcast などで結成された HPPA が主導する規格である.日本企業としては住友電気工業やシャープが参加している.コンシュマー向けとしてアメリカを中心に世界的に普及しているようである.

UPA はスペインの DS2 が主体となる規格であるが,http://www.upaplc.org/ は 404 になっている.分電盤があってもブリッジすることができ,セキュリティや管理ツールも整っているので企業への導入に向いていると評価されている

仕様の比較表を以下に示す(正しいか要検証).

HD-PLC HPAV UPA
周波数帯 4~28MHz 2~30MHz ~30MHz
物理層速度 190Mbps 200Mbps 240Mbps
通信速度 TCP 65Mbps, UDP 90Mbps TCP 65Mbps, UDP 85Mbps 90Mbps?
通信範囲 150m 150m
MAC TDMA + CSMA/CA TDMA + CSMA/CA ATDMA
符号化 リードソロモン+畳み込み ターボ リードソロモン+TCM
変調/マッピング Wavelet OFDM/PAM Windowed OFDM/QAM OFDM/QAM
暗号化 AES128bit AES128bit 3DES 168bit

通信速度は各所で報告されている実測値である.

IEEE P1901 の標準化

HomePlugPA も IEEE 1901 に関してパナソニック同様のプレスリリースを出している./. ではドラフト時点では3規格を協調させる仕様になっていたというコメントがあり,ある質問サイトでは PLC 製品開発に携わっていると名乗る人が,ドラフトでは3規格全てと共存方式が盛り込まれているため規格へのフル対応には3MAC+2PHYに対応するICが必要と述べているが,PAP15のある資料では,「IEEE 1901: 2つの PHY/MAC (HD-PLC と HPAV) とその共存」と記されているので,どうやら仕様に盛り込まれているのは HD-PLC と HPAV の2規格であると思われる.なのでパナソニックの HD-PLC が IEEE 1901 に採用されたというのは確かに正しいが,大切な部分が不足している情報である.

PHY として採用されたのは Wavelet OFDM PHY (HD-PLC) と FFT OFDM PHY (HPAV) の2方式のようである.協調に IPP (Inter-PHY Protocol) を用いる(下図 ISP の部分).

MAC に関しては IEEE_ISPLC2009の基調講演の資料の共存部分の図によれば共通 MAC として統一されるようである(下に引用).

IEEE 1901 外の PHY/MAC 技術との共存を可能にするのが Co-existence protocol (CXP) である.CDCF 信号を用いてモデムの切り替えを行って制御する.

関連技術

Ethernet over Coax (EoC)

同軸ケーブル上で通信する技術.テレビ線などシールドされているので電磁波の漏洩が少なく,高速で通信できる.

Power over Ethernet (PoE)

イーサネットケーブル上で電力を供給する技術.無線APの設置などイーサネットケーブルは引く必要があるが,電源を引くのが困難・手間な場合に利用される.IEEE 802.3af として標準化.

HD Base-T

イーサネットケーブルを介して 10.2Gbps で映像音声通信しながら,イーサネット通信,電源供給まで行う通信規格.

Home - HDBaseT™
EthernetでAV伝送や電源供給可能な「HDBaseT」規格化 - AV Watch

PLC の問題

PLC は電磁波の漏洩が大きくアマチュア無線などに影響があるとして,現在訴訟が行われている.事の運びによっては総務省の認可が降りずに,国内で使用不可能になる可能性がある.

PLC の応用

私が常々ほしいと思っている PLC のアプリケーションは,SNMP で各コンセントの消費電力を取得できる電源タップと,グラフ化・可視化するようなシステムである.この電源タップは PLC で通信してツリー状のトポロジーを構成する.

例えば,ドライアーを使って大丈夫か,大丈夫でなければどのタップに繋がったどの機器を落とせばどのタップで使えるようになるのか,といったことがわかるようになる.単身用世帯では利用可能な電力が少なくコンセントの数も少ないので,電子機器を大量に設置するには多段タコ足配線しながら消費電力に気を配り続けなくてはいけない.こういう人にとっては非常に有効なアプリケーションではないだろうか.