情報共有(P2P)研究会に参加した感想

2008年2月29日に機会振興会館で開催された情報共有(P2P)研究会に参加したのでレポートを。

午前の部

P2Pアーキテクチャ概要 - 西谷智広さん(NTTコム

P2Pアーキテクチャ概要 -構造化オーバーレイからユビキタスへの応用-」という題で、P2Pの基本的な部分の説明。
前半のP2P概要は19日に開催されたP2Pネットワーク協議会シンポジウムでの講演とほぼ同内容で、少し深く丁寧に説明した感じ。後半はP2PSIPやユビキタス、NAT越えの簡単な説明。時間がなかったので本当に簡単な説明で終わってしまって残念だった。

Inside Bamboo DHT - 藤田昭人さん(大阪市立大学D2)

University of California, BerkeleyのSean Rheaが開発したBambooDHTの実装解析のお話。Javaで書かれた実装をC++に翻訳しながら解析したらしい。
BambooはChurn耐性を考慮したParstyの拡張で、SEDA、OceanStore、libasync、Bamboo Original、の4つの技術で構成されているそうだ。このそれぞれについてのちょっと踏み込んだ解説をしてから、BambooDHTのモジュール(Stage)の紹介があった。
質疑応答で首藤さんが「俺のOverlay Weaverの方が良くね?」って言ってた。比較検討したことがあって、結果Bambooはあまり良くなかったらしい。藤田さんもそれを半分ほど認めているようだけど、敢えてBambooを使ったのには訳があるという。

参考:
Sean's Research Page
Handling churn in a DHT

午後の部

ネットワークから見たP2P技術のインパクトと課題ー - 亀井聡さん(NTTサービス)

下のレイヤの業者から見た場合のP2P技術のお話。
初めにファイル共有の歴史にふれた後、コンテンツ配信におけるCDNP2Pの比較、トランジットやネットワーク負荷の問題にふれた後、P2Pネットワーク実験協議会についてのお話。
要約:P2P技術のインパクトとしては、トラフィックの増加とトラフィックマトリックスの変化の2点があり、これはコンテンツ転送レイヤのみの問題である。現在のインターネットのトラフィックは主にサーバクライアント型のYouTubeニコニコ動画Flash動画である。現在、トラフィックの量が増えると同時にコンテンツの質も上がっている。前者はP2P特有の問題ではないので、ネットワーク事業者はまっとうに対処していく必要がある。

携帯用P2Pフレームワーク - 林雄一郎さん((株)吉田鎌ヶ迫)

au端末/WindowsMobile上で動作するP2Pフレームワーク「Spear」と、n対n通信に対応した「SpearMulti」の紹介、採用実績とデモンストレーション。その後、現状の携帯端末における問題点と解決策、および将来の展望。
C/Sモデルの通信ゲームはキャリアのWAN、ゲートウェイ、インターネット、サーバを経由してるので通信に1〜2秒のラグが生じるけど、SpearではキャリアのWAN内を経由させるだけなので、タイムラグが非常に小さい(0.15秒程度)。これを文字チャットで実演。
他にも、タイムラグを感じない程度の速度で、写真をすぐに送ったり、お絵かきチャットもできる。物理的に遠距離であってもタイムラグはほとんど変わらないとのこと。
このSpear/SpearMultiを利用したアプリが既にTAITOから商用ゲームとして発売されていて、それの実演もあった。
DocomoSoftBankではそもそもP2Pが使えないとのこと。使えるキャリアでも制限が厳しいので、常時接続を前提としないP2Pアプリケーション(ゲームやメッセンジャー)が適するそうだ。

プロジェクト、成果、どちらの面でも非常におもしろかった。非常に問題な環境下で実用的なレベルまで実装してしまったのがすごい。やはり目の前でさくさく動くものを見せられるとグッとくる。吉田鎌ヶ迫++

Proof of concept のその先に オーバーレイネットワークの実際 - 首藤一幸さん(ウタゴエ(株))

まずGnutellaプロトコル、DHTなどの簡単な紹介。構造化ネットワークのくくりとして、Overlay Weaverのデモ、紹介、制作秘話(?)。非構造化オーバーレイネットワークのくくりとしてOcean Grid(P2Pライブ配信)の紹介。
Overlay Weaverの制作秘話は興味深かった。ソフトウェアを使ってもらうための努力や、次々に起こる問題とその対処について語ってくださったのだけど、「これは大変」と言いながらしっかり解決してさらにその上を行く。やはり首藤さんは凄い。その開発姿勢にインスパイアされた。
実地運用で発覚した問題とその解決など、技術メインで深いところまで踏み込んでいたので内容も興味深かった。ソフトウェアを作るのは大変だ。

全体の感想

前日徹夜で、研究会中に爆睡すると確信していたけど、内容が非常に刺激的で、居眠りしなかった。それぐらいおもしろい研究会だった。懇親会は行きたかったが、TOEFLを明後日に控えているので断念した。
会場の写真は恐らく近日中に首藤さんの日記に載ると思われるのでそちらもご参照ください。
Shudo's Notes (2019/5)