「ノーベル賞・フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明と科学技術予算をめぐる緊急討論会」を中継して

はじめに

2009年11月25日(水),東京大学 本郷キャンパス 理学部1号館 小柴ホールで開催された「ノーベル賞フィールズ賞受賞者 による事業仕分けに対する緊急声 明と科学技術予算をめぐる緊急討論会」を Ustream で中継しました.

この会見は当日午前に発表されたものでしたが,事業仕分け同様にネット上でも非常に高い関心を集めていて,是非見たいので中継してくれという声が寄せられました.その声に後押しされて配信の企画を決意しました.

ちなみに私はこの大学で工学を学ぶ修士の学生です.

経緯

当初は個人的な Ustream での中継を予定しておりました.しかしネットワークに不安があったので理学系の担当者の方にネットワークの使用の許可をお願いしたのですが,学術的目的以外には許可できないと拒否されました.また,理学部側で配信を予定していたので一度は諦めました.

しかしこれまでの事業仕分けのネット中継の関心の高さ*1を鑑みると,理学部側のシステムの同時最大接続数は絶対に一桁足りないと思い,具体的な数値を提示して,改めて中継を打診したところ,負荷を分散するのに役に立つならと許可を頂きました.また会場のネットワークと公式で録音している音声をお借りすることができました.

改めてお礼を申し上げたいと思いますありがとうございます.

資料

声明文(ノーベル賞フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明と科学技術予算をめぐる緊急討論会)
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/info.html?id=2009

署名簿: ノーベル賞フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明
http://spreadsheets.google.com/viewform?formkey=dEhoSnhEQUZtMnNpd0tJQkFXUm9CZFE6MA

この署名簿は我々中継チームが作成しました.この署名は11月末を以て締め切られ,公式の事務室に渡されます.

動画

大人の事情により動画の公開を停止致しました.ご理解をお願い致します.

第一部:ノーベル賞受賞者による緊急声明と質疑応答
http://www.ustream.tv/recorded/2638211

第二部:東京大学の教授陣による討論会
http://www.ustream.tv/recorded/2638367

音声はライン入力で頂いたので良質だと思いますが,映像は急遽用意したウェブカムだったので酷いです.予めご了承ください.

諸事情によりこれらの録画はとても近いうちに消えます...

第一部(声明発表)

ノーベル賞フィールズ賞受賞者による緊急声明の発表が行われました.手前から石井紫郎先生(司会),江崎玲於奈先生,利根川進先生,森重文先生,野依良治先生,小林誠先生です.それぞれの先生方が想いを述べた後,石井先生から声明発表が行われました.

第二部(討論会)

東京大学の教授陣と学生による討論会が行われました.主に学内の学生向けです.手前から,石井紫郎名誉教授,勝木元也名誉教授,相原博昭教授,松本洋一郎教授,福田裕穂教授,山本正幸教授です.

私の意見

社会に研究界の意思を表示するための非常にいい機会になったと思います.そうした機会ができた意味では事業仕分けの結果も有意義だったかもしれません.この緊急声明に至った実行力は率直に評価したいと思います.

たくさんの素晴らしい発言・名言が飛び交い,先生方の熱意は非常によく伝わったのですが,少し冷静さを欠いていたように思いました.炎のように熱くなる心の中にも氷の冷静さを持っていてほしかったです.具体的な箇所を2つ上げます.

1つ目は,事業仕分けの仕分け人が「世界一位を目指す必要が有るのか」という問いをしたことに対する非難です.私の記憶では,質問をした蓮舫議員は世界一を目指す必要性を理解していました(本人談).また,円周率の計算で世界記録を出していた–世界一を狙い続けた–東京大学大学院の金田教授も同じ指摘をしていました.それを鑑みるとこの愚直な質問は,夢を語るのはひとまず置いておいて社会に対して具体的に納得のいく説明ができるのかどうかということを,明らかに「試されたもの」です.残念ながら試されたお役人さんは納得させられる回答をできませんでした.事業仕分けの場では夢を語るのではなく,どれだけ社会の役に立っているのか,還元されているのか,客観的なデータに基づいて論理的に説明すべきでした.実際に日本科学未来館の毛利館長はそのようにして,根本的な予算の削減から逃れることが出来ました*2

2つ目は,官僚を生み出した東大法学部が悪いという旨の発言です.なぜスパコンの仕分けの時に毛利さんのように重鎮が出てこなかったのか?なぜ担当する官僚が本質に踏み込んだ良い答弁を出来なかったのか?自分の研究を支えてくれる官僚との信頼関係が足りなかったのではないでしょうか*3.官僚を生み出す東大法学部を悪だと主張したのは完全な失言だと思います.研究者vs官僚という図式に持ち込まれるのはお互いに,そして国家として不幸でしかありません.我々がすべきことは理系・文系,その垣根を越えてお互いに理解できるように,信頼できるように関係を築いてて行くことではないでしょうか.大学の先生方には,官僚や政治家との信頼関係を築くための仕事をやってもらいたいと思います.また,利根川先生が仰られたように政治や報道の世界に理系の人間が少ないことも難しい問題だと思います.

このことを発言しようとしましたが残念ながら発言の機会が得られませんでした.討論会と題しているのに学生の発言機会が少なかったのが残念です.

おわりに

今回の声明発表及び討論会は,学術機関のこれからの社会認知活動を決起する重要な機会になりました.研究者は自らの活動を社会に対し理解できるようアピールし,社会も研究者の活動に耳を傾けてその意義を理解してもらえるようになるお互いに豊かになれる素敵な社会が実現されるきっかけになればと思います.

私の Ustream 中継は,のべユニーク視聴者数は 11,300+,最大同時接続数は 2,700+ 人でした.多くの方にこの声明発表と討論会をお伝えできたことを嬉しく思います.ありがとうございました.

*1:この日の有志による仕分けWG3のUstreamの中継の視聴者数は700人程度でした.

*2:結果は削減でしたが,その削減は組織体系の無駄をなくすための削減でした.

*3:あまりひどいと癒着と言われますが...